第71章 他人の願いを優先するのは難しい。
ご存知のとおり、ランプの魔人は願いを三つ叶えてくれる。ジーニーの主人となったアラジンは二つの願いを叶えてもらった後、三つ目の願いでジーニーを自由にした。だが今回葵咲は二つの願いを叶えてもらう事なく獅童の自由を叶えようとしている。それも、命懸けで。その事に獅童の胸はドクンと高鳴った。
葵咲「じゃあ銀ちゃん、後はお願いね!」
銀時「おい待てよ!お前また一人で無茶して…っ!…って聞いちゃいねぇ。」
その背に呼び掛けるも全く聞く耳持たずに、葵咲はその場から走り去って行く。追い掛けて葵咲の無茶を止めたいのは山々だが、獅童を一人放っていくわけにもいかない。銀時は頭をガリガリと掻いて獅童に手を差し伸べた。
銀時「おい、大丈夫か?」
獅童「ああ。それよりあいつは…」
心配そうに葵咲が走って行った方へと目を向ける獅童。それに対して銀時はフッと笑顔を見せた。
銀時「心配すんな。お前ら花魁なんかよりずっと強ぇからよ。なんせ市民を護る“対テロ組織の”税金泥棒様だからな。」
“対テロ組織”、その言葉を聞いて目を見開く獅童。葵咲の所属に検討がついたのだ。獅童はハッと笑いを零して疲れたような笑みを浮かべる。
獅童「なるほど。俺ァとんでもねぇ女に惹かれちまったみてぇだな。」
銀時「ついでに言うと、とんでもなく天然で鈍いぞ。」
獅童「…それはもう知ってる。」
たった数日の付き合いだが、葵咲が天然な事は身をもって体感していた。割と本気で迫っていたのに全く相手にされていなかった獅童。ほろ苦い経験を思い出すかのように渋い顔を浮かべる。銀時は獅童の顔を見て、獅童が葵咲から受けた仕打ちを容易に想像出来た。銀時はその件については特に深くは掘り下げず、真剣な眼差しを向けた。
銀時「それより、今どういう状況だ?」
獅童「・・・・・。」