第71章 他人の願いを優先するのは難しい。
刀を構えた花魁達数人に囲まれる葵咲と獅童。絶体絶命のピンチだ。
「大人しくついて来るなら痛い目を見ずにすむぜ。ククッ。」
先程囲まれた時ほどの数ではないが、それでも結構な人数がいる。しかもこちらは手負いの獅童がおり、葵咲は丸腰。花魁に扮した侍を相手に、獅童を庇いながら素手で闘うのは正直キツイ。葵咲は一筋の汗を垂らしながら唇をきゅっと噛む。その時、そこへ窮地を救う救世主が現れた。
銀時「葵咲ァァァァァ!!」
葵咲「銀ちゃん!?」
その場に颯爽と現れたのは銀時だった。銀時は葵咲の潜入捜査を知って独自に華月楼の事を調べていたのだ。この日吉原へと訪れたのはたまたまだが、華月楼に不穏な空気を感じ、一人突入してきたのだ。銀時は葵咲の方へと目掛けて刀を投げた。
銀時「受け取れェェェェェ!!」
葵咲「!」
突然現れた部外者に目を瞬かせる侍達。驚きで一瞬遅れを取るが、一人の男が他の男達に号令を掛けた。
「構うな!やれェェェェェ!!」
その号令で男達は葵咲に攻撃を仕掛けようとするも、葵咲が刀を受け取る方が少し早かった。葵咲は受け取った刀を素早く鞘から抜き出して応戦する。
「ぐわぁぁぁっ!!」
獅童「!?」
鮮やかな程の華麗で素早い動き。葵咲は侍達を一瞬で捌いた。目の前で見ていた獅童は、その無駄の無い動きに釘付けになる。葵咲は速やかに刀を鞘へと納め、倒れた侍達に目を向けた。
葵咲「安心して。峰打ち…じゃないけど傷は浅いような違うような、そんな気がしなくなくなくなくないから…。」
銀時「どっちだァァァァァ!!単に峰打ち失敗しただけだろーが!」
最初のドヤ顔から一変、倒れた侍達の傷の具合を見て冷や汗を垂らす葵咲。台詞の語尾は消え入るように小さくなっていた。それを見た銀時は一発で葵咲が峰打ちを失敗した事に気付く。そのツッコミを聞いた葵咲はギクリと背筋を強張らせた後、キッと銀時を睨んだ。