第70章 隠し通路があるのは隠したい何かがあるから。
スッと立ち上がる葵咲。それを見て獅童も慌てて上半身を起こして呼び掛ける。
獅童「おい、お前はどうするんだよ!?」
葵咲「私は先程の場所に戻ります。」
獅童「は!?奴らお前を狙ってんだぞ!?」
葵咲「ですが、このままだと菊之丞さんが危険です。」
先程の花魁達が獅童はもう用済みだと言ったのは恐らく、犯人に仕立て上げる対象が獅童から菊之丞へ代わったという事なのだろう。
自分達を逃がした事がバレたのではと、葵咲はそれを懸念した。警察として放っておくわけにはいかない。いや、警察じゃなくても葵咲の性格的に放ってはおけなかった。
だが獅童は葵咲の身を案じ、腕を掴んで引き止めようとする。
獅童「その前にお前が危ねぇだろ!!」
葵咲「大丈夫ですよ。私は今までずっと逃げて逃げて、そうして生き延びてきましたから。逃げたり隠れたりするのは得意なんです。」
獅童「お前…。」
葵咲は獅童の心配を嬉しく思いながらも、その手を優しくほどこうとする。だがその時、獅童は葵咲の腕をグイッと引っ張り、自らの腕の中へと抱き寄せた。
葵咲「獅童さん!?」
獅童「さっきアンタ言ったよな?大事なモン見失うなって。今の俺にとって一番大事なのは…アンタだ。」
葵咲「!」
獅童「目の前でみすみす失うわけにはいかねぇ。」
耳元で囁かれる真剣な想い。そのハスキーな声に心地良さも感じる。そして抱き締められている事で、その温もりを直に感じていた。
獅童「なぁ。こっから一緒に逃げ出して、何処か遠い街で一緒に暮らさねぇか?俺はもう絵師に戻れなくてもいい。アンタがいれば、それだけでいい。」