第70章 隠し通路があるのは隠したい何かがあるから。
獅童「…くっ!これ、そんなにキツイ毒なのか?身体に全然力が入らねぇ。」
獅童は相当堪えている様子。その理由は吹き矢の毒だと考えてそのような発言をするが、葵咲の見解は違っていた。
葵咲「いえ、それだけじゃないと思います。ここの食事には何か薬物のようなモノが含まれてました。」
獅童「!?」
葵咲「先程牢屋に運ばれて来た食事から化学薬品の臭いがしたんです。調べてみないと確かな事は言えませんが、恐らく体力を奪うような何か…。」
口に含んだだけではどんな作用があるかまでは分からなかった。だが食事に何かが含まれていたのは確かだ。そして今の獅童を見て容易に察しがついた。
あまりの酷い仕打ちに、葵咲の中で沸々と怒りが込み上げてくる。葵咲の発言を聞いた獅童はとても寂しそうな顔を浮かべながら吐き捨てるように言った。
獅童「…はっ。最初から俺ァ騙されてたって事か。」
葵咲「・・・・・。」
信じていた者からの裏切り、その辛さは葵咲にも痛い程分かった。それ故に、掛ける言葉が見つからない。
妙な薬が含まれた食事は、花魁達を逃がさない為の食事なのだろう。いざという時に逃げ出せないようにする為に、その足枷となるような食事を与えている。
以前菊之丞が華月楼(ここ)の食事は合わないと言っていた。恐らく菊之丞はその事に気付いていたのだろう。医者の勘で。だから、ほとんど華月楼の食事に手をつけていなかった、その事が今繋がる。
出来る限りの毒を吸い出した。そして葵咲は自らの着物の袖を千切り、獅童の腰に巻いて応急処置を終えた。
葵咲「よし、とりあえず応急処置は出来ました。ですが、まだ動くと毒が回る危険もあるので獅童さんはこの辺りで暫く隠れていて下さい。」