第70章 隠し通路があるのは隠したい何かがあるから。
迷路のようになっている華月楼は、逃げ隠れするには打って付けの場所だった。
二人は入り組んだ道を走り進み、階段の下の目立たない陰へと隠れる。そして息を潜めながら様子を窺った。
「くそっ!何処行きやがった!探せ!探せェェェェ!!」
飛び交う叫び声を聞く限り、見つかっている様子はない。葵咲達は逃げ延びたようだ。入口は見張られている可能性が大いにあるが、山崎が潜入した裏口がある。獅童だけを逃がすのは何とかなりそうだ。
その事を獅童に告げようと、彼の方に目をやる葵咲。その時、獅童の様子がおかしな事に気付いた。
葵咲「とりあえず、撒いたようですね。」
獅童「…そいつぁ…良かった。」
葵咲「獅童さんは裏口から…獅童さん?」
凄い量の汗だ。しかも普通の汗じゃなく、冷や汗。それだけじゃない、顔色もすこぶる悪い。獅童は苦しそうな顔を浮かべながら、その場にしゃがみ込んだ。
獅童「…ハァ。ヤベぇな。最近すっかり体力落ちてるわ。筋トレでもしときゃ良かったな。」
その様子を見て葵咲は何かに気付いたように獅童の半襟に手を掛ける。
そして次の瞬間、バッと勢い良く胸元を開け、上半身をはだけさせた。
獅童「えぇェェェ!?ちょ!何してんだよ!?いくら俺が花魁だからってこんな時にこんなトコでェェェ!?」
別の意味で己の身の危険を感じる獅童。だが葵咲は獅童を襲うつもりで着物を脱がせたわけではなく、吹き矢の傷口のある右腹へと目をやった。
葵咲「! もしかしてさっきの攻撃…毒矢!?」
獅童「…かもしれねぇな。」
葵咲「・・・・・っ。」
どうやら獅童も気付いていたようだ。どんどん青ざめていく獅童を前に、葵咲はきゅっと唇を結ぶ。そして葵咲は獅童を押し倒して傷口に唇を落とした。
獅童「ちょ!何してんだよ!?」
葵咲「毒を吸い出すんです。」
獅童「そんな事したらお前が…!!」
葵咲「私は大丈夫です。それよりじっとしてて下さい。」
チューーー…傷口から毒を吸い上げ、吐き出す。それを何度か繰り返した。