第70章 隠し通路があるのは隠したい何かがあるから。
二人がそんなやり取りをしていたその時、葵咲の背後にキラリと光る何かが見えた。そして次の瞬間それがこちらに飛んでくる。
気付いた獅童は咄嗟に葵咲を押しのけ、身を挺して庇った。
獅童「! 危ねぇ!!」
葵咲「!? 獅童さん!!」
獅童「く…っ!」
飛んで来たのは吹き矢。矢は獅童の右腹を掠め、獅童は傷口を押さえながらよろめく。葵咲は獅童の肩に手を置き、獅童の顔を覗きこんだ。獅童は葵咲を安心させるようにと笑顔を向ける。
葵咲「大丈夫ですか!?」
獅童「大した事ねぇ、かすり傷だ。」
矢の飛んできた方へと目を向けると、十人以上の花魁達がゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。先程の松島に仕えていた侍のように、中には知らない顔もいるが、獅童にとっては、そのほとんどが見知った顔の花魁達ばかり。最初に葵咲を案内してくれた新造の姿もあった。
だが、誰もが普段とは明らかに違った雰囲気を放っている。恐らく、松島の息が掛かった者達なのだろう。雇われている花魁達の見張り役といったところだろうか。
花魁達は二人の前で立ち止まり、先頭にいる花魁が右手を前へとスッと伸ばしながら獅童へと声を掛けた。
「その女をこちらへ渡してもらえますか?」
獅童「なんだ、俺を追いかけてきたんじゃねぇのか?」
獅童は葵咲の前へと立ち、葵咲をその背に庇う。獅童も花魁達のいつもとは違う雰囲気を感じ取り、警戒しているようだ。獅童へと話し掛けた花魁は首を横に振って答える。