第69章 嫌な現実からは目を背けたくなるもの。
眉尻を下げて心配そうな顔を向ける葵咲に対し、獅童は笑顔を見せた。
獅童「それより飯食わねぇ?冷めねぇうちに。」
葵咲「獅童さん…。」
獅童は先程運ばれたまかないのチャーハンの皿を手に取る。一つを葵咲の前へと差し出した。葵咲はそれを受け取り、口へと含む。
(葵咲:!? このご飯…!)
味に違和感がある。何か化学物質が含まれているような違和感だ。
葵咲は慌ててスプーンを握っている獅童の手を取った。
葵咲「ダメです、獅童さん!食べないで!」
獅童「おい、どんだけ食い意地張ってんだよ。そんなに腹減ってんのか?」
葵咲「そうじゃなくて!」
チャーハンに含まれている薬品のような物について説明しようとしたその時、背後でゴトゴトッという音がした。
葵咲「何!?」
慌てて振り返ると、そこには菊之丞の姿が。
葵咲「菊之丞さん!?」
菊之丞「しっ。」
菊之丞は人差し指を自らの口元に当てて静かにするよう促す。
獅童「お前!どっから…!」
二人が牢内に幽閉された時には確かに菊之丞はいなかった。何故今この中にいるのか、獅童はそれを問い質す。菊之丞は声には出さず、親指でクイッと自らの背後にある抜け道を指差した。どうやら牢内と外とを繋ぐ秘密の通路があるらしい。
菊之丞は葵咲の方へと目を向けて小声で問い掛ける。
菊之丞「警備は?」
葵咲「多分暫くはこっちに来ないと思います。どうしてここへ?」
菊之丞「貴方達がここへ幽閉されたと聞いたので。さぁ、早くこちらへ。」
そう言って自分が通ってきた抜け道へ二人を案内した。