第69章 嫌な現実からは目を背けたくなるもの。
葵咲と獅童は地下にある牢屋へと連行される。
「大人しくしてろよ。」
葵咲「・・・・・。」
二人は檻の中へと入れられた。勿論牢は施錠され、鍵がなければ開けられそうにない。携帯電話も圏外になっている。
葵咲はひとまず様子を見る事にした。先程二人を連行してきた付人は葵咲達の入れられた檻から近からず遠からずの位置に立っている。葵咲はその男達に目を向けてボソリと呟いた。
葵咲「あの付人、侍ですね。」
獅童「侍?なんで分かるんだ?」
葵咲の呟きを聞いていた獅童は目を瞬かせる。その質問に答えるように葵咲は男達の左手へと目をやり、親指と人差し指との間、親指の付け根を指差しながら言った。
葵咲「左手に刀を使う者特有の傷があったので。あの侍はずっと華月楼に?」
獅童「いや、俺ァ初めて見たぜ。爺が最近雇ったのか、あるいは…。」
葵咲「・・・・・。」
ずっと居たが、松島が隠していたか。
後者の方が有力な気がする。それが頭に過ぎった獅童は言葉を噤む。信じたくない気持ちがあるのだろう。
だがそれはまだ推測にすぎない。今ここで考えを巡らせても仕方のない事だ。葵咲も偏見だけで発言するわけにはいかず、その件についてはそれ以上話すのをやめた。
葵咲「とにかく、まずは彼らをどうにかしてここから出る方法を考えましょう。」