第69章 嫌な現実からは目を背けたくなるもの。
気を取り直して本題に戻る。フゥと一息ついた後、松島は獅童へと目を向けた。
松島「獅童、お前の我侭は大概の事は多めに見てきたが、これは許されん事だぞ。」
声を掛けるも無反応。獅童は手の中にある本と、それに挟まっていた何かを見つめたまま沈黙を落としていた。松島は怪訝な顔を浮かべる。
そしてもう一度獅童へと声を掛けようとするが、それよりも先に獅童が静かに口を開いた。
獅童「…おい爺。なんでコレが…ここにある?」
葵咲「?」
先程までは獅童の顔に目を向けていた松島だったが、問い掛けられて獅童の手元へと視線を落とした。
松島「! ・・・・・。」
松島の立っている位置からは本に挟まっている物までは見えないが、手に持っている本が何の本か分かり、挟まっている物の内容が分かった。
今度は松島が沈黙を落とす。何の返答もしない松島に対し、獅童はギリリと歯噛みして顔を上げた。
獅童「なぁ、なんでかって訊いてんだよ!答えろ!」
松島へと向き直る獅童。一方、松島はそんな獅童からはスッと視線を逸らし、一緒にいる付人へ指示を出す。
松島「この者達を地下牢へ。」
「はっ。」
付人のうち二人が部屋へと入り、葵咲と獅童の腕を取る。松島は部屋には入らず、葵咲達に背を向けてその場を後にしようとする。獅童は付人には目もくれず、松島の方を見据えながら叫んだ。
獅童「おい!待てよ!なんで目ェ合わせねぇんだよ!爺!!」
「おら!大人しくしろ!!」
付人は獅童の後ろに回り、彼を羽交い絞めにして押さえ込もうとする。もう一人の付人は葵咲の腕を後ろに掴んで押さえ込んだ。
葵咲「ちょ!!」
二人が取り押さえられた様子を確認するように、松島は首だけ振り返る。そしてとても鋭い眼光を向けて冷たい言葉を放った。
松島「せめてもの情けだ。二人同じ牢屋へ入れてやれ。」
「分かりました。」
獅童「おい!放せっ!!」
獅童は抵抗するが、付人の方が力が強く、振り切る事が出来ない。そんな様子を見ていた松島は冷ややかな笑みを送る。
松島「ここは遊郭だ。牢の中でせいぜい楽しむんだな。」
そして松島は再び二人に背を向け、振り返る事無くその場を立ち去った。