第68章 相談する事は信頼の証。
獅童が捜査して欲しいのは菊之丞。まさかの自分の慕う松島の部屋への潜入を宣言されて思わずノリツッコミだ。
葵咲は獅童に目を向けながら獅童が納得するような理由を話す。
葵咲「被疑者を減らす為です。もし違法薬物の事実があった場合、一番最初に疑われるのは楼主の松島さんです。仮に鳥居さんに騙され、ハメられてるにしても、関与しているとなれば余罪は逃れられません。今のうちに“犯人じゃない”証拠を押さえとかないと。罪を着せられてからじゃ遅いんです。」
獅童は松島の事を慕っている。そんな人間に松島も被疑者の一人だなんて言えるはずがない。下手をすれば松島に報告される可能性だってある。そうなれば全てが水の泡だ。葵咲は松島への報告を阻止する為に更に言葉を付け加える。
葵咲「松島さんも知らない今の状況が大事なんです。もし松島さんがこの捜査の事を知ってしまえば、知ったから証拠を隠滅した、などとあらぬ容疑をかけられる可能性もありますから。くれぐれも松島さんには悟られないようにして下さい。」
獅童「・・・・・。」
座ったまま黙り込んで葵咲を見上げる獅童。その瞳は葵咲の言葉を吟味しているようだ。念を押しすぎて墓穴を掘ってしまっただろうか。葵咲は内心冷や汗を垂らす。
これ以上疑いの目で見られない為にも、葵咲は獅童に背を向けて部屋から出ようとした。
葵咲「これ以上獅童さんを巻き込んだりもしませんから安心して下さい。今から私一人で…」
獅童「俺も行く。」
葵咲「え?」
思わず振り返る葵咲。獅童はゆっくりと立ち上がって葵咲と向き合った。
獅童「爺の無実を晴らす為だ。それに爺の部屋に忍び込むなら、俺の部屋から天井裏をつたって行った方がいいだろ。俺が案内してやる。」