第68章 相談する事は信頼の証。
獅童は考える猶予をやると言って、その日は葵咲に手は出さなかった。
屯所へと戻った葵咲は、ぼーっと歩きながら獅童から聞いた話をもう一度振り返る。
(葵咲:今日の事、本当なのかな。私はどうするべきなのかな…。)
初めての潜入捜査。その難しさを改めて実感していた。情報収集もそうだが、それ以上に感情移入しない事の難しさを痛感する。
客観的に獅童から聞いた話を頭の中で整理しようとするが、どうしても菊之丞という人物像がその邪魔をする。菊之丞の事を信じたいという感情が。彼は元々被疑者なのだと自分に言い聞かせ、己の感情との葛藤を心の中で繰り広げる。
そこにたまたま傍を通りかかった土方が葵咲へと声を掛けた。
土方「どうした?難しい顔して。何かあったのか?」
葵咲「ひ、土方さん!」
ビクゥゥゥッ!!
跳ねるように驚いて葵咲は振り返る。それを見た土方は自身も少し驚いた表情で詫びを入れた。
土方「悪ィ。おどかしちまったか?」
葵咲「いえ、大丈夫です。あ、そうだ、土方さ…」
今日の事を相談してみようと思った。だが、整理すら出来ていない話を無闇に話して良いものだろうか。こんな状態で話しても逆に混乱を招くだけではないだろうか。それに何より、もしその話をそのまま受け入れられてしまったら…。菊之丞の立場だけが悪くなってしまうのではないだろうか。