第68章 相談する事は信頼の証。
その場でそれ以上深い話はされなかったとの事だ。
場面は葵咲と獅童の部屋へと戻る。獅童は話を続けた。
獅童「それから数日後、菊之丞がこの華月楼へと連れてこられた。奉行所の役人、鳥居にな。」
葵咲「!!」
まさかここで“鳥居”の人物名が出てくるとは思ってもみなかった。これは当たりなのではないだろうか。葵咲の心臓はドクンと大きな音を立てた。ゴクリと唾を飲んで次の言葉を待つ葵咲。だが、獅童は何かを深く考え込むように眉根を寄せて黙り込んでしまった。その様子を怪訝に思った葵咲は首を少し傾けながら獅童の顔を覗きこむ。
葵咲「? 獅童さん?」
獅童「…あの男の顔、忘れもしねぇ。鳥居は…俺の芝居小屋の火事の捜査をした男だったんだ。」
葵咲「!?」
何がどうなっているのか…。正直頭がついていかない。話についていく為に葵咲は今獅童から聞いた話を必死に頭の中で整理しようとするが、獅童の話は立ち止まる事なく突っ走る。
獅童「菊之丞がここに来てから妙な噂が流れた。この吉原に犯罪者が紛れ込んだっつー噂だ。それを聞いて思い出したんだよ。爺と誰か…、いや。爺と鳥居が話していた会話をな。それから俺なりに調べた。芝居小屋を放火した犯人の目撃情報、風貌、それらは菊之丞(あいつ)と一致したんだ。鳥居は放火犯を捕まえてたんだよ。そしてその“犯人”をこの華月楼へと送り込んできたんだ。」
話に置いていかれそうだった葵咲だが、何とか最後までついていく事は出来た。