第67章 どんな薬にも必ず副作用がある。
本当に納得しているのか微妙な様子の葵咲。その事は葵咲の表情から読み取れたが、あまり言い過ぎても逆効果になり兼ねない。『絶対に手を出すな。』と言われると手を出したくなってしまう、そんな心理だ。そう判断した土方はその件にはそれ以上触れず、話を別の方向へと向ける。
土方「それと、こっちも新たな事が分かった。」
葵咲「新たな事?」
土方「この件に噛んでるのは攘夷浪士じゃねぇ。奉行所の鳥居だ。」
葵咲「!? 吉原一帯管轄の?」
鳥居の姿を吉原内で見掛けた後、土方は山崎と別れて鳥居の身辺を独自に調べたのである。現段階では確証はまだないが、華月楼へ足を運んでいる頻度等から、限りなく黒に近いグレーだと判断している。
葵咲も真選組隊士となり、江戸一帯の奉行所長の名前は知っていた。それは勿論鳥居も例外ではない。想定外の人物名に葵咲は驚いた。
土方「吉原は幕府に黙殺されている超法規的空間。管轄の奉行所は形だけのもんだ。今まで役人が現地に入る事なんざなかったはずだが、鳥居は最近頻繁に吉原に出入りしてやがる。しかも華月楼だけにな。勿論、俺達みてぇに何かを調査してるっつーわけでもねぇ。」
葵咲「まさか、その薬物売買は鳥居さんが首謀?」
その質問に土方は唸りながらも首を横に振る。
土方「そこまではまだ分からねぇ。だが、華月楼が本当に薬物売買を行なってるなら、黙認は確かだろうよ。さっきも言ったが、吉原は幕府に黙殺されてる空間だ。大抵の事は関与されねぇが…違法薬物となりゃ話は別だ。しかも今回取引が行なわれてる薬物ってのに引っ掛かるモンがあってな。」
葵咲「引っ掛かるもの?」
そこまで話したところで、土方は煙草を灰皿に押し付けて火を消す。ここからの話は更に本腰を入れて話さなければならない内容だったからだ。
土方は灰皿を机の上に置き、腕組みして葵咲に目を向けた。