第67章 どんな薬にも必ず副作用がある。
その日の夜、葵咲は土方の部屋へと呼び出された。
潜入捜査の進捗状況報告会である。葵咲が部屋に入って早々、土方は雑談する事も無く、いきなり本題に入った。
土方「どうだ?捜査の方は。」
煙草に火を点けながら葵咲の顔をじっと見据える土方。葵咲はコクリと頷いてから報告を始める。
葵咲「華月楼内で怪しい動きがありました。中年の男性と菊之丞さんが密談していたんです。顔は確認出来ませんでしたが、声から察するに年齢は五十代くらい…。その男が菊之丞さんを使って薬物売買を行なっている様子です。これはまだ推測に過ぎませんが、会話から察するに菊之丞さんは男からの指示で売買に関与させられてるんじゃないかなって…。」
仕事モードの葵咲はタメ口ではなく、基本的に敬語。きちんとオンオフは切り分けている。葵咲はその日見た菊之丞と男性との密談についてきちんとした報告を行なう。相手の男の声色や雰囲気についても詳しく。それを聞いた土方は掘り下げるように、会話内容の詳細について尋ねた。
土方「その会話ってのは?」
葵咲「『裏切ればどうなるか分かっているな?』と。」
土方「なるほどな。」
単なる共犯者という可能性も無くはないが、男の声色から推測される年齢や会話の雰囲気からして、菊之丞より相手の男の方が年齢や立場が上であるのは明らか。弱みを握られていたり、脅されている可能性も考えられた。葵咲はその事を告げる。
葵咲「仮に弱みを握られていた場合でも、菊之丞さんは罪に問われるんですか?」
土方「そりゃそうだろ。関与してる事に変わりはねぇ。奴らがやってる事は犯罪だ。」
葵咲「・・・・・。」
容赦なしの返答に葵咲は眉根を寄せて悲壮な表情を浮かべる。そんな葵咲に対して土方は苦言を呈する。
土方「あんまり情を移すなよ。」
葵咲「…分かってます。」
土方「・・・・・。」