第64章 面接の受け答えは準備しすぎると失敗する。
仕方ないと言われるのも何だか微妙な気持ちだが、菊之丞がそう言うのならまぁ良いか。そんな事を思っていると、三人の傍へと禿が駆け寄ってきた。禿は申し訳なさそうな顔で葵咲にチラリと目をやりながら菊之丞へと声を掛ける。
「菊之丞さん、すみません。松島様がお呼びなんですが…。」
“松島”とはこの華月楼の楼主の名前だ。それは事前の調べで葵咲も知っていた。菊之丞は禿の言葉に頷く。
菊之丞「…今行きます。貴女は先に私の部屋へ。」
葵咲「分かりました。」
葵咲の承諾を聞き、菊之丞は呼びに来た禿と共に別の方へと歩いていく。その背を見つめながら葵咲は考える。
(葵咲:とは言ったけど、これはチャンスなんじゃ…。)
楼主松島と菊之丞の密談。薬物売買について話す可能性は大いにある。新造にはこの間のように適当に厠に行く等と言って菊之丞の後を追おうと考えていると、奥の方から聞き覚えのある叫び声が葵咲達の元へ届いた。
「っざっけんじゃねぇェェェ!!」
葵咲「あの声は…。」