第64章 面接の受け答えは準備しすぎると失敗する。
二人が鳥居の姿に目を張っていた頃、葵咲は華月楼へと到着していた。華月楼の門をくぐる葵咲に新造がすぐさま近寄って来る。
新造「こんにちは。あっ。貴女は確か…。」
昨日最初に葵咲に声を掛けた新造だった。勿論葵咲が二回目の来店だという事を覚えている。
二回目の来店客への対応として入口付近の大広間へと案内しようとしたその時、たまたま菊之丞がその場を通りかかる。
そして葵咲の姿を目にした菊之丞は二人へ声を掛けた。
菊之丞「貴女は…。彼女を私の部屋に案内なさい。」
自分の部屋に案内するよう新造へ促す菊之丞。そんな彼に新造は目を丸くして問い返した。
新造「えっ、でもこの方は…。」
戸惑った様子の新造。葵咲も驚いた様子で目を瞬かせる。まさか二日目で部屋に案内してもらえるとは思ってもみなかった。そんな葵咲の様子には構わず、菊之丞は言葉を続けた。
菊之丞「構いません。昨日もう話してしまいましたし、今更ルールを遵守する意味もないでしょう。」
葵咲「あ、有難うございます。」
想定外の展開に葵咲は驚きながらも頭を下げる。
そんな三人のやり取りを近くで見ていた他の花魁達は小声で話す。『あの菊之丞さんが二回目で部屋に…』。その声が葵咲の耳にも届き、少し居た堪れない気持ちになった。そして思わず菊之丞へと小声で話しかける。
葵咲「あの、本当に良いんですか?」
菊之丞「仕方ないでしょう。」