第64章 面接の受け答えは準備しすぎると失敗する。
額に手を当て、眉根を寄せながら首を横に振る。暫く押し黙っていた菊之丞だが、表情を改め、深いため息を吐きながら普段の平然とした顔を向けた。
菊之丞「どうしても、また来ると言うのですか?」
葵咲「はい。勿論、貴方をご指名します。」
揺るがぬその強い言葉に、菊之丞は真剣な眼差しを返す。そして次は自らの変わらない意見を述べた。
菊之丞「しかし先程の言葉を取り消すつもりはありません。私は貴女を抱く気はありませんが、宜しいのですか?」
葵咲「はい。お話し出来ればそれで十分です。」
真っ直ぐに向けられる明るい笑顔に、菊之丞はとうとう折れて葵咲からの指名を受ける事にした。
菊之丞「…分かりました。じゃあ貴女からのご指名を受けましょう。貴女のお名前は?」
葵咲「葵咲です。」
菊之丞「覚えておきます。…勘違いしないで下さいね。仕方なく、ですから。」
葵咲「はい。」
最後の“仕方なく”という言葉はやはり言い訳のように聞こえる。それに対して葵咲はまたもやクスッと笑いを零してしまった。これ以上やりとりしても調子を狂わされるだけだと思った菊之丞は、葵咲に背を向けて再び歩き出した。
菊之丞「…入口まで送ります。」
葵咲「有難うございます。」
獅童の部屋を出て行った葵咲達の後を追い、土方と山崎もまた移動していた。移動した先は勿論、二人の頭上。
山崎「何か良い感じの雰囲気ですね。副長、良いんですか?恋のライバル出現ってやつですよ。」
土方「誰が恋のライバルだコノヤロー。仕事だ、仕事。」
口ではそう言うものの、土方は目に見えて苛立った様子。そんな手に取るように分かる嫉妬が、山崎にとっては面白くて仕方がない。