第64章 面接の受け答えは準備しすぎると失敗する。
不敵な笑みを浮かべながらじりじりと葵咲へ迫る獅童。
獅童が葵咲の顎をクイッと上げて唇を重ねようとしたその時、葵咲の手がすっと伸び、獅童の胸元へと当ててその仕草を押し返した。
葵咲「ゴメンナサイ。私はしたくありませんので。」
獅童「えぇぇぇぇ!?俺仮にも華月楼(ココ)のトップ張ってんだけどォォォ!?」
あまりのキッパリ具合に身体を仰け反らせながらツッコむ獅童。そんな獅童のツッコミを前にしても葵咲は至って平然とした態度のまま。それを見て獅童は眉根を寄せた。
獅童「…けっ、菊之丞以外の男は嫌ってか?まぁそういう女の方が燃え…」
他の花魁の客も寝取ると言われている獅童。その噂は本物らしく、自信たっぷりに笑顔を浮かべて再び葵咲へと迫ってきた。だが葵咲は眉尻を下げて獅童の言葉を遮る。
葵咲「いえ、誰ともしたくないんですけど。」
獅童「お前ここに何しにきたァァァァァ!!ったく、とんだ生娘が紛れ込んだもんだなァオイ!」
完全にヤる気を削がれた。そんな様子で獅童は葵咲から離れた。奥に据え置いている机の脇の座布団へと胡坐をかいて座り、煙管に火を点ける。そして怪訝な顔を浮かべ、葵咲へと目を向けながらため息混じりに問い掛けた。
獅童「マジなんでここに来たんだよ?」
その問い掛けを待ってましたとばかりに葵咲は息を吸い込み、笑顔で答える。
葵咲「『私、殿方が苦手なんです~。だからお喋りから始めて少しでも慣れたいと思って~。』」
獅童「理由棒読みじゃねーか!絶対ぇ嘘だろそれェェェ!つーかさっき普通に話してたよね!?全然苦手な風に見えねんだけど!?」
考えていた理由を言い間違えないようにしたが為の超棒読み。面接とかでよくある光景だ。質問内容を予め想定しておき、きっちり答えられるようにと回答を用意しておく。そこまでは良いのだが、面接で失敗する要因の一つでもあるように、用意した回答を一言一句丸暗記していると、それをキッチリ答えようとしてしまう。頭で考えながら言おうとすればする程、心のこもっていない棒読みになってしまうのだ。
そんな失敗例そのものの光景を、土方達は天井裏から覗き見ていた。
(土方:良い案ってこれかァァァ!!全然良い案じゃねェェェェェ!!)