第63章 草食系男子だって中身は獣。
その時、菊之丞の背後から禿が声を掛けた。
「菊之丞さん、ご指名入りましたよ。」
菊之丞「!」
何とも間の悪い。いや、獅童にとってはラッキーな声掛けだ。しめたといった顔付きで菊之丞の手を振り払い、葵咲の手を引いて歩き出した。
獅童「ほら、テメーはテメーの客の相手してろ。女、行くぞ。」
葵咲「私、まだ行くとは…!!」
急に手を引かれて葵咲の足はもつれそうになる。なんとか体勢を立て直しながら、獅童へと歩幅を合わせた。そしてその状況を見ていた土方はとうとう激昂し、その場に立ち上がった。
土方「ヤロォォォォ!!」
山崎「ちょ!副長ォォォォォ!!!」
山崎は今にも刀を抜き出そうとする土方の腰に手を回し、何とかその行動を抑えた。
一方葵咲は手を引かれるままに獅童の部屋へと引きずり込まれる。
獅童「ここが俺の部屋だ。」
とりあえず来てしまったものは仕方がない。葵咲は入口の側に腰を落とす。菊之丞には拒否されてしまったのだ。もう一人の容疑者である獅童に近付くのも一つの手だと考え、この場に滞在する事を考えた。
獅童「ま、そう硬くなんなよ。悪ぃな。ついさっきまで客の相手してたから布団そのまんまになってるわ。」
部屋の中央には乱れた布団が敷かれたまま。先程連れていた女性と情事を勤しんでいたのだろう。葵咲は布団にチラリと目を向けた後、獅童へと視線を戻して手を振った。
葵咲「大丈夫です。」
獅童「! へぇ。見かけによらず大胆なんだなぁ。前の女の残り香も気にならねぇってか?」
葵咲「あ、いえ。今別に眠くないんで。お気遣いなく。」
獅童「眠れって意味で言ったんじゃねェェェェェ!!」
まさかの返しに獅童は思わずツッコミを入れてしまう。遊郭で布団を眠る意で捉えられたのは初めてだ。だが気を取り直して獅童は葵咲の前へと腰を落とし、葵咲の顎をクイッと上げて顔を近付ける。
獅童「お前も“そのつもり”で来たんだろ?お前は今から俺に抱かれんだよ。」
薄暗い部屋の中に浮かぶニヤリとしたその笑顔は、妖艶な雰囲気を漂わせていた。