第63章 草食系男子だって中身は獣。
人を見下ろすように顎を上げて不敵な笑みを浮かべる獅童。傲慢な性格というのはその態度から見て取れた。獅童は葵咲の横を通り過ぎ、菊之丞の前で立ち止まる。
獅童「お前がいらねぇっつーんなら構わねぇだろ?」
菊之丞「それは客人が決める事。貴方が決める事ではないでしょう。」
その言葉を聞いた獅童はフフンと鼻を鳴らして葵咲の方へと振り返る。
獅童「おい女。構わねぇよな?」
葵咲「えっ?」
突然話し掛けられて目を瞬かせる葵咲。今置かれている状況を飲み込めないでいた。葵咲がきょとんとしているのをお構いなしに、獅童は一緒にいた女に目を向けて勝手に話を進める。
獅童「悪ィな、送るのやっぱナシ。お前はこっから勝手に帰れ。」
「えっ!?ちょっと獅童!?もうっ!!」
女は獅童を引き止めようとするが、それを振り払い、獅童は葵咲の手首を取って歩き出した。
獅童「こっち来い。」
葵咲「あのっ!ちょ、ちょっと…!!」
強引に手を引く獅童の様子を天井裏から覗き見ていた土方は拳を作って怒りを露にする。
土方「んのヤロォォォォ!!」
山崎「ちょ、副長!落ち着いて下さいって!!」
両手を前に出して土方を宥めようとする山崎。今にもその場に飛び出して行きそうな勢いに山崎は焦るばかりだ。だがこのまま放っておくのも確かに気が引ける。このままでは葵咲の貞操が危ない。
山崎が思考を巡らせていると、二人が動くより前に菊之丞が獅童を制した。菊之丞は獅童の肩を掴んで彼の行動を止めようとする。
獅童「あん?何の真似だ?」
目に見えて苛立った様子の獅童。物凄い目付きで菊之丞を睨み付けた。だが菊之丞も負けてはおらず、獅童を睨み返す。
菊之丞「それはこちらの台詞。華月楼(ここの)ルールを忘れたわけではないでしょう?この方は初見です。」
獅童「お前の方こそ“俺のルール”を知らないワケじゃねぇだろ?俺には初見のルールなんざ関係ねぇ。俺は自分が気に入った客は初見でも抱く。爺も黙認してる事だろうが。」
菊之丞「っ!貴方って人は…!!」
ギリリと歯噛みする菊之丞。今にも喧嘩が始まりそうなこの状況に葵咲は割って入る事が出来ず、ただ見守る事しか出来なかった。