第63章 草食系男子だって中身は獣。
葵咲「ちょ、ちょっとスタンドを見かけたものでっ!」
菊之丞「スタンド!?」
葵咲「はい、10万52歳くらいのっ!」
菊之丞「いや、知らないですけど!てかスタンドって見ただけで年齢分かるの!?そもそもスタンドって何!!」
苦しい言い訳に葵咲は汗だく。これ以上無理に取り繕えばボロが出そうだ。葵咲は観念して本当の事(仮)を話す。
葵咲「ごめんなさい。厠を借りたのですが玄関への道が分からなくなってしまって…。」
嘘ではない。当初は本当に厠を借りるといって新造と別れたのだ。葵咲はチラリと菊之丞の顔を見やる。菊之丞はその言葉の真偽を確かめるようにじっと葵咲の瞳を見つめた。
菊之丞「・・・・・。」
(葵咲:ヤバイ、一応本当の事なんだけど…ウソ臭かったかな…。)
身体に穴が開きそうなくらい見つめられて内心ヒヤヒヤ。今すぐにこの場から逃げ出したい気持ちだ。そんな二人の様子を天井裏の隙間から見下ろす二つの影が…
土方「おいィィィ。いきなりピンチじゃねぇかァァァ。どうすんだこれ!(小声)」
山崎「俺に言われても…!!(小声)」
二人は葵咲の様子を見る為に、山崎が事前に調べていた裏口からコッソリ華月楼内部へと忍び込んだのである。早くも潜入捜査がバレそうになっているピンチに、土方と山崎も冷や汗を垂らす。だが菊之丞は特にそれ以上葵咲を問いただす事はなく、ため息をついて呆れた顔を浮かべた。
菊之丞「ハァ。華月楼が、というより遊郭そのものが初めてのようですね。貴女のような方が何故遊郭なんかに?」
葵咲「えっと…。」
口ごもる葵咲。それを見て菊之丞は更に深いため息を吐く。
菊之丞「…まぁ良いです。玄関まで案内しましょう。これに懲りたら、もう二度とここへは足を踏み入れない事です。」
葵咲「どうしてですか?」
普通なら一人でもお客を逃したくないところ、それを“もう来るな”とは納得がいかない。まぁ葵咲の場合は事情が違うが、門前払いされる事に納得がいかなかった。問い質すように葵咲が菊之丞を見つめていると、菊之丞も葵咲へと向き直り、真剣な眼差しを向けた。
菊之丞「ここは貴女のような生娘が来るような場所じゃない。」
葵咲「っ!…嫌です。というか、別に懲りてませんし!」
馬鹿にされたような言い草に葵咲はムッとし、踵を返して歩き出す。