第63章 草食系男子だって中身は獣。
土方、山崎と別れて華月楼へと足を向ける葵咲。初めて訪れる吉原というきらびやかな場所。行き交う人々は女も男も高価な着物に身を包んでおり、華やかな笑顔を振りまいている。
ここに訪れているのは女を買う為に訪れている男とその逆。どちらも恐らく上流階級の家柄で、裕福な暮らしをしているのだろう。その笑顔には余裕が感じられた。
少しでも場に溶け込めるようにと、いつもよりは綺麗めの着物を着ている葵咲だが、自分だけが場違いで浮いているように感じた。葵咲は華月楼の地図を片手に、きょろきょろしながら吉原内を闊歩する。
葵咲「えっと…確かこっちだよね。」
山崎「・・・・・。」
挙動不審に歩いている葵咲の後を尾(つ)けているのは山崎、それと…
土方「おいおい、あいつホントに大丈夫か?キョロキョロしすぎだろ。キョロちゃんでもそんなキョロキョロしねぇだろ。」
塀からひょっこり顔を出して葵咲の様子を見ていた山崎の背後には土方がいた。土方は山崎の後ろからひょっこりと顔を出し、葵咲の後姿を見守っている。山崎は土方の方へと目を向けて叫んだ。
山崎「アンタの方が大丈夫ですかァァァ!?ここで一体何やってんですか!!」
土方「俺はオメーが仕事サボらねぇか、監察の監察だ。」
山崎「いらんでしょソレェェェェェ!」
土方「何言ってやがんだ前科犯。テメーのせいで俺がどんな目に合ったか。…忘れたわけじゃねぇよなァ…?」
山崎「・・・・スイマセンでした。」
“前科犯”とは雪月花第五十六~五十七訓の事。山崎の誤った判断・報告により、土方を野良猫の攻撃の餌食にさせてしまった件だ。その件を持ち出されては謝る他に無い。山崎は仕方なく、土方と一緒に葵咲を尾行する事にした。
葵咲「ほぇぇ。これが遊郭…。」
華月楼へと無事に辿り着いた葵咲は入口の前で足を止め、建物を見上げた。荘厳な造りに思わずたじろいでしまう。
ぼーっとしていると、中から二十歳そこそこの若い男が出てきた。この男も綺麗な着物を身に纏っている。恐らく最近客を取るようになったばかりの新造だろう。
新造「こんにちは、初見の方ですか?」
葵咲「えっ!?あっ!は、はい!!」