第62章 どの組織にも型にはまらない奴がいる。
翌日昼過ぎ。
土方、葵咲、山崎の三人は吉原へと訪れていた。葵咲はその素性を知られない為にも、いつもと少し違う格好をしている。万が一知り合いがいた場合にも気付かれにくくする為だ。髪は美容室でセットアップし、着物も大人っぽい綺麗目の黒い着物に薄紫の羽織。コンセプトは老舗呉服屋の令嬢もしくは若奥様といったところか。土方と山崎も隊士の制服ではなく、私服姿だ。
ちなみに、この任務は真選組隊内でも極秘任務に値する。吉原の調査を行なう事を知っているのはこの場にいる三人と局長の近藤だけだ。更に葵咲が潜入捜査を行なう事は近藤には告げておらず、この事を知っているのはこの三人だけだった。
吉原内の路地裏にて、三人は潜入前の確認を行なう。
山崎「潜入する遊郭の名前は“華月楼(かげつろう)”。その華月楼についてなんですが、花魁と仲良くなる為にはいくつかルールがあります。」
葵咲「ルール?」
葵咲は目をパチパチとさせながらも山崎の話に真剣に耳を傾けていた。山崎は人差し指を立てながら掟(きまりごと)を説明する。
山崎「この遊郭はすぐに目当ての花魁には近付けないんだ。最初は初見って言って、遠くから見てるだけ。二回目も話す事は出来なくて、三回目でようやく顔を覚えてもらえるといった具合。それから何度か通って、ようやく馴染み客だと認めてもらえるようになる。」
葵咲「仲良くなるまでに時間が掛かるんだね。」
初日である今日、昼過ぎに吉原を訪れた理由はこれだった。遠くから眺めるだけなので初見は大して時間も掛からない。
山崎「だから葵咲ちゃんが花魁と仲良くなるまでの間に、俺も極力裏から情報を集めるよ。」
葵咲「有難う。」
守備良く捜査を進められれば、葵咲が花魁に近付くまでに有力な証拠を掴める事だって出来るかもしれない。心強い山崎からの申し出に葵咲は笑顔を向けた。そして土方は煙草に火を点けながら話の筋を戻す。
土方「で?臭い花魁の目星はついてんのか?」
山崎「はい。この二人が薬物売買に関わってる可能性が極めて高い花魁です。」
そう言って山崎は懐から二枚の写真を取り出した。