第62章 どの組織にも型にはまらない奴がいる。
土方が何故こんな事をしたのか、その背を見て分かった。悪ふざけでも勢いでもない。遊郭という場所を甘く見ている葵咲にその事を分からせる為だった。
本当に葵咲の身を案じての事。その身で体感させる為にわざと押し倒したのだ。その事を葵咲はしっかりと胸のうちに受け止める。
葵咲「ご忠告、有難うございます。でも私は少しでも早く解決に導きたい。」
土方「おい、俺の話…」
眉根を寄せながら思わず振り返る土方。だがそこにあったのは先程までの葵咲ではなかった。
葵咲「ちゃんと受け止めたよ。今は土方さんだったから油断しちゃったけど遊郭に入る時は絶対隙は見せない。押さえつけられたりもしないから。」
土方「葵咲…。」
葵咲の真剣な眼差しに言葉を失ってしまう土方。そして葵咲は力強い笑顔を向ける。
葵咲「大丈夫。私の“強さ”、知ってるでしょ?」
ここまでしても、その決心は揺るがないのだ。これ以上何を言っても無駄だろう。土方は大きなため息をついて葵咲が折れる事を諦めた。
土方「…分かった、だがこれだけは約束しろ。危なくなったらすぐに逃げ出せ。いいな。」
葵咲「分かった。約束、ね。」
そう言って葵咲は左手の小指を目の前に差し出す。土方は躊躇うようにその小指をじっと見つめる。なおもずいっと差し出される華奢な小指に、土方は照れながらもおずおずと自らの小指を差し出して指切りを交わした。