第61章 契約書の小さい文字には重要な事が書かれている。
葵咲「敵わないなぁ。服部さんには。」
その笑顔を見た後も服部は笑顔見せる事なく、真剣な眼差しを向けながら言葉を紡ぐ。
服部「言わねぇつもりか?」
葵咲「…言おうとは思ってます。いつまでもこのままじゃいけない。いつかはちゃんと話さなきゃって…。でも、どうしても…まだ踏ん切りがつかなくて…。」
服部「・・・・・。」
真剣に投げ掛けられた服部の問いに対して失礼のないように、葵咲もまた真剣に答える。そして今度は少し諦めたような表情で独り言のように呟いた。
葵咲「でも…そろそろ潮時みたいですね。」
その場に落ちる沈黙。服部は少しだけ考え、今度は葵咲からは視線を外して真っ直ぐに前を見据えながら言った。
服部「…心配すんな。俺ァ今、市村葵咲の護衛役だ。お前さんがどんな立場に変わろうと、俺はただお前さんの護衛任務を遂行するのみだ。」
そう言って服部はスッと立ち上がり、庭先に出る。葵咲は心配そうな眼差しを服部の背へと向けた。
葵咲「服部さん!でも…貴方の依頼主は…。」
葵咲の言葉を聞いた服部は振り返り、今度は真っ直ぐ葵咲の目を見据えながら笑顔を見せた。
服部「俺達忍は侍と違って仲間意識はそれほど強くねぇ。確かにこの案件の依頼主は土方(しんせんぐみ)だが、俺は真選組の仲間じゃねぇし、主君でもねぇからな。俺はただ、“市村を匿え”っていう依頼を遂行するのみよ。」
葵咲「服部さん…。」
向けられる真剣な笑顔に嘘偽りがない事が分かり、服部の決意の重みを知る。葵咲は深く目を瞑り、口元に薄い微笑を浮かべながら感謝の気持ちを押し出した。
葵咲「・・・・有難うございます。」