第58章 To LOVEるは男のロマン。
服部がバイトに向かってから約三時間が経つ。服部のバイト先はニンニンピッツァ。仕事はピザの配達だ。
この日はいつも以上に注文が多く、なかなか抜け出す事が出来なかった。夕食はピザを運ぶと約束していた為、葵咲が別の食事を取っているとは思えない。しかも居候初日で、家の物は物色するなと伝えている。勝手に冷蔵庫を漁ったりはしないだろう。
服部は遅くなった事に申し訳なさを感じながら、何とかバイト先を抜け出して急いで自宅にピザを運ぶ。
服部「ヤベェな、遅くなっちまった。」
こういう時、忍者の早さは素晴らしい。屋根から屋根へ、華麗に飛び移りながら闇夜を駆け抜ける。数分も掛からないうちに自宅へと辿り着いた。
屋敷内の中庭に降り立ち、辺りの様子を窺う服部。物音はしないが、ちゃんと葵咲の気配は感じる。またもや勝手に何処か出掛けたりしていないだろうかと少し心配していたのだが、気配を感じて安心した。そしてそのまま音を立てずに縁側に近寄り、身を潜める。
服部「どうせなら脅かしてやっか。」
先程は散々言いたい放題言われたのだ。ちょっとした仕返しをしてやりたいと思う気持ちが沸き出てきたのである。だがここでふと、葵咲も年頃の女性である事を思い出す。
服部「あ。やべっ。着替えてたりしたらどうしよっ。To LOVEるになったらどうしよっ。」
生粋のジャンプっ子である服部はTo LOVEる、リトのハレンチ行為が頭の中を駆け巡る。
そして妄想が突き進んだ結果、悪魔の囁きが勝利を収めた。
服部「まぁいいか。その時は謝れば。…着替えててくんねーかな。」
コソコソと庭先から客間へ忍び込もうとする服部。抜き足差し足忍び足…。流石はお庭番筆頭の忍と言えよう。全く音を立てず、気配も絶ち、庭先の窓から葵咲のいる客間へと静かに忍び込んだ。だがそこで服部は目を疑う。部屋の中に葵咲の姿を見つけられない。
服部「あれ?」
先程まで確かに葵咲の気配を感じていた。いないはずがない。服部が部屋の隅々まで見回す為に首を動かそうとしたその時だ、服部の首元に冷たい刃物が触れた。
服部「!!」
慣れない感覚に冷や汗を垂らしながら、思わずゴクリと唾を飲み込む。すると背後から女の低い声が耳元に届く。
「誰?」
服部「…っ!?」