第58章 To LOVEるは男のロマン。
服部の後ろを取ったのは葵咲だった。葵咲は中庭に人の気配を感じ、咄嗟に窓の死角へと身を隠した。そして服部が入ってきたと同時にその背後へと回り、持っていた短刀を喉元へ突きつけたのだ。葵咲は侵入者が服部だと気付き、慌ててその身を解放する。
葵咲「えっ、服部さん!?わっ!ご、ごめんなさい!てっきり泥棒か何かかと…。」
後ろを取られるまで全然気付かなかった。確かに油断はしてたが、それでも忍者免許更新中の現役忍者だ。そんな服部が背後を取られるなど、なかなか無い。服部は苦笑を浮かべながら忍び込んだ事を詫びた。
服部「いや、こっちこそ脅かしちまって悪かったな。ほら、夕飯のピザだ。」
そう言ってバイト先から持ってきたピザの箱を葵咲の前に差し出す。持ってきたピザはクォーターで、シーフード、プルコギ、てりやきチキン、ポテトベーコンの四種になっている。美味しそうな焼き立てピザを目の前に、両手を合わせて笑顔を見せる葵咲。
葵咲「わぁー!美味しそう!有難うございます。おいくらですか?」
服部「御代はいらねぇよ。」
葵咲「え、でも…。」
匿ってもらっていて、夕食までご馳走になるのは流石に忍びない。葵咲は申し訳なさそうな顔で財布を出して代金を支払おうとするが、服部は両手を前に出して首を横に振った。
服部「気にすんな、それはバイト先の余りだ。それに、明日以降の飯代はしっかり護衛料金に入れさせてもらってっから。」
それを聞いた葵咲は財布を握っていた手をおろして頭を下げた。護衛期間の食事代は給与から差し引いて貰おう、などと考えた。服部は踵を返して外へ出る。そして振り返り、葵咲に目を向けて微笑を浮かべた。
服部「じゃあ俺は仕事に戻るが、その様子なら大丈夫そうだな。」
葵咲「はい、有難うございます。何時ぐらいに帰って来られそうなんです?」
服部「今日のシフトは深夜だからな。早くて二時ぐらいか。」
葵咲「そうですか。お気を付けて。」
服部はそのまま屋根へと飛び移り、バイト先へと足を進めた。