第58章 To LOVEるは男のロマン。
日が暮れてきた時刻、服部は葵咲のいる客間の襖をトントンと叩く。葵咲は襖を開けて顔を出した。
葵咲「どうかしました?」
先程接した時とは服装が変わっている服部。明らかに外出着である。そしてその予想どおり、服部は玄関の方を親指で指差しながら言った。
服部「俺は今からちょっと出てくる。」
葵咲「えー。なんかズルイよねー自分だけ。」
口を尖らせて不平不満を述べる葵咲。自分は外出どころか、外に面したところでさえ出入り禁止なのに。その事に不公平さを感じたのだ。だがその意見に対して服部は怒りを露にする。
服部「何がだァァァァ!!俺は別に狙われちゃいねーんだよ!オメーはいい加減自分の身の危険を理解しろ!!」
ここまで呑気にのらりくらりとされると、そう深刻な話じゃないのではないかと思えてきた。だが、昨日の土方の様子を思い出し、事態は軽視出来ない事なのだろうと思い直す。そもそも、そんな大した事じゃないのであれば屯所内で匿えば良い話。それを自分に護衛依頼を掛けるのだから、やはり深刻に考えなければならないのだろう。
服部は少し冷静な表情を取り戻して外出理由を説明する。
服部「悪いがどうしてもシフトをズラせなくてな。今日だけ仕事掛け持ちさせてもらうぜ。晩飯は俺がピザ届けてやるから。お前は誰が来ても出るなよ。いいな。」
葵咲の護衛任務は昨日舞い込んだ仕事。一応ダメ元で暫くの間休みを貰えないかとバイト先に掛け合ってみたのだが、流石に今日の予定は変えられなかったのだ。代わりに入ってくれる人が見つからず、仕事に出る事に。あまりにも緊迫した雰囲気だったのなら仕事を欠勤する事も考えたが、当の本人、葵咲がこの様子だ。それに葵咲は真選組隊士と聞く。(今のところ強いという印象は全くもって感じられないが。)数時間くらい放っておいても大丈夫だと判断した。そして服部の仕事事情を聞いた葵咲は、渋々承諾する。
葵咲「はいはい、分かりましたよ。」
服部「なんでお母さんみたいな口調になってんだよ!俺を下に見てんじゃねェェェ!!」
苛立った様子でズカズカと歩いて玄関へ向かう服部。葵咲も見送りの為に玄関まで足を運ぶ。
葵咲「いってらっしゃい。お気を付けて。」
葵咲の笑顔に見送られて服部は屋敷を出た。