第58章 To LOVEるは男のロマン。
“別嬪はその笑顔の裏で何を考えているのか分からない”。それが服部の持論だ。葵咲の笑顔に何か裏があるのでは、と考えているのである。
服部は昨日土方と話した会話内容を思い起こしながら、今日葵咲と話した印象とをすり合わせ、今どんな事件が起ころうとしているのかを推察しようとする。葵咲の宿泊する客間を後にし、一人ダイニングルームへと訪れた。冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注ぐ。そしてテーブルの椅子に腰掛けながら考えを巡らせた。
(服部:あの女…何かあるのか?あの男の発言も気になるしな…。)
コップに注いだお茶を一気に飲み干したところで、声を掛けられた。
葵咲「服部さん、ちょっと出掛けて来ますねー。」
服部「おぉ。夕方までには帰れよー…ってちょっと待てェェェェェ!!何考えてんだァァァァァ!!」
思わずつられるようにノリツッコミ。その仕草はベタベタの二度見だ。そしてそんな服部に対して、葵咲は王道のボケで返す。
葵咲「買出しで買う品物の事考えてます。ダイコクかマツキヨ、どっちの方が安いかなーって。」
服部「そういう事言ってんじゃねーんだよ!外に面した所もダメだっつってんのに外出なんか、もっての外だろうが!!」
自分の置かれている状況の分かってなさに苛立つ服部。いくら天然で鈍い葵咲とはいえど、流石に服部の怒りは見て取れた。葵咲は眉根を下げて言葉を押し出した。
葵咲「でも…。」
しょぼんとした葵咲の態度を見て、一瞬で頭を冷却させる服部。それもそうか、いきなりの居候でしかも初対面。生活に必要な物が足りていなかったとすれば、初対面の男に買って来いとは言いづらい。自分で買いに行くと言ってしまうだろう。
それを察した服部はクールダウンして優しい落ち着いた声色に変えた。
服部「何買いに行くつもりなんだよ?俺が買って来てやるから。」
葵咲「ボラギノールです。」
服部「えっ…まさかお前も…?」
思わぬ同志の誕生に胸を躍らせる服部。同じ痛みを分かち合う存在として、仲良くやっていけるかもしれない。
そう思ったのも束の間。その期待は次の瞬間あっさりと裏切られた。
葵咲「いえ、私は痔じゃないです。」
服部「じゃあなんで買いに行くの!」
痔じゃないなら全くもって不要な産物だ。他に使い道などない。理由を問いただすと、思わぬ回答が返って来た。