第57章 先入観で物事を判断すると、ろくな事がない。
木の繁みから様子を窺っていた土方達もまた、固唾を呑んで現場を見守る。
(土方:総悟のヤツ…既に何か掴んでやがったのか…?)
二人の様子を見ながら土方は過去の自分を思い出す。葵咲が高杉と繋がっていた事件。あの時の自分と総悟が重なってしまう。最初は葵咲の事を信じる事が出来なかった自分だ。そしてその時の近藤の言葉が頭の中に木霊した。
近藤『俺は葵咲を信じている。同じ真選組の仲間としてだ。』
力強い近藤の言葉を思い出しながら、深く目を瞑る土方。
(土方:近藤さん…。今ならあの時のアンタの気持ち、分かる気がするぜ。)
近藤の言葉を思い出し、今の局面と過去を重ねる土方。あの時の近藤のように総悟を止める言葉を考えていると、廃寺の中から人影が現れた。
「やはり来たか、幕府の犬ども。」
土方「!」
葵咲「!?」
総悟「桂!!」
そこに現れたのは桂小太郎だった。突然の桂登場にその場にいる皆が目を丸くする。桂は腕を組みながら葵咲と総悟を睨みつけた。
桂「貴様らなんぞに…指一本触れさせはせん!」
一触即発の事態に、葵咲は訴えるような瞳で桂を見やる。
葵咲「待って!私は…!!」
そこまで言ったところで葵咲の言葉は阻まれる。
総悟「葵咲!その先の言葉、よく考えてから発して下せぇ。内容によっちゃあ…コイツの共犯者とみなしやすぜ。」
桂の方へと目を向けていた葵咲だったが、ここで総悟の方へ振り返った。獲物を狩るようなその目つきに、葵咲は背筋を冷たくする。そして胸元できゅっと拳を作り、俯いた。
葵咲「っ!!私は…。」
躊躇うように地面へと視線を落とす葵咲を見て、桂はフンッと鼻を鳴らす。
桂「やはり、所詮は口先だけの決意だったという事か。」
葵咲「違う!」
総悟「話はここまでだ。やるからには手加減はしねぇ。」
桂の言葉に反論しようとする葵咲の言葉を、またもや総悟が遮るように割って入った。これは葵咲を攘夷側(てきがわ)へと回さない為の総悟の配慮だった。