第57章 先入観で物事を判断すると、ろくな事がない。
そして翌日。葵咲は神妙な面持ちで屯所を出て行く。土方と山崎は顔を見合わせ、無言で頷いた。葵咲は周りを警戒しながら、昨日と同じ方向へと足を向ける。
土方「昨日葵咲が桂と密談してた寺ってのもこっちの方向だったな。」
山崎「はい。この先の歌舞伎寺です。」
思いつめた表情の葵咲。そんな彼女の横顔を見て、土方は何とも言えない表情を浮かべる。暫く歩いた後、辿り着いたのはやはり昨日と同じ場所、歌舞伎寺だった。土方は最悪の事態も想定する。本音としては、最悪の事態を考えたくは無いが、立場上そんな事も言ってられない。極力、葵咲が不利にならない状況を作り出す事を頭の中に巡らせた。そんな考え事をしながら現場の様子を窺っていると、物陰から人が現れた。
(土方:ん?あれは…!)
「やっぱり…。」
葵咲「!?」
葵咲が振り返った先にいたのは総悟だった。
総悟「昨日の“散歩”は、ここだったんですねぃ。」
葵咲「そっ、総悟君…!!」
想定外の人物の登場に、土方と山崎は驚きの表情を見せる。そして葵咲にとっても総悟の登場は想定外。みるみる顔から血の気が引いていった。総悟は真剣な眼差しを葵咲に向けて言葉の矢を放つ。
総悟「もう一度だけ言います。俺は葵咲とは敵対したくねぇ。俺の忠告、聞いてもらえやせんか?」
決して軽い気持ちの言葉ではない。“最期の忠告”といっても過言ではないその言葉に、葵咲は眉根を寄せる。暫く押し黙り、きゅっと目を瞑った後、再びゆっくりと瞼を開けて言葉を押し出す。
葵咲「…ごめん。私はやっぱり…。」
苦渋の決断。それは葵咲の震える声を聞けば分かる。葵咲も決して安易な気持ちでその決断を下したのではないという事が。“ソレ”は総悟の中では予想していた回答だったらしい。総悟は残念そうな顔を浮かべながらため息を吐いた。
総悟「まぁ…葵咲ならそう言うと思っていやしたが。」
葵咲「・・・・・。」
その場に重たい沈黙が下りた。