第56章 優しさは時に相手につけこまれる。
その日の出来事を経て、事は緊急を要すると思った山崎は、屯所に帰ってすぐに土方へと報告する。
土方「葵咲が狙われてるだと!?」
報告を聞いた土方の表情は強張る。それは至極当然の話だろう。予想外の報告だった。葵咲の裏切りが発覚した、というような報告よりは“仲間”としては嬉しいかもしれないが、決して手放しには喜べない。
そんな土方の表情を受け止め、山崎が更に説明を加える。
山崎「ええ。突風があったわけでもないですし、ましてや落ちてきたのは重たい植木鉢。不自然に思えたので、用心して葵咲ちゃんを屯所まで送り届けた後、現場検証に戻ったんです。そしたら植木鉢はバルコニーの大分内側の方に置かれていた跡が残ってまして。その場所から下に落ちるなんてありえない状態でした。」
土方「…誰かが故意に動かして落としたっつー事か。」
山崎「はい。」
それ以外考えられない。山崎の現場検証を聞けば誰もがそう判断する事だろう。土方は考え込むように唸り、腕を組みながら山崎へ真剣な眼差しを向けた。
土方「葵咲が面倒見てる奴らの仕業か?」
“葵咲が面倒見てる奴ら”、それはつい先日報告のあった魚を提供している連中を指し示す。だが、この質問には山崎は首を縦には振らなかった。
山崎「まだそこまでは…。でももしそうなら、奴ら葵咲ちゃんが用済みになって消そうとしてるって事に…!」
土方「っ!」
自然と同じ結論へと辿り着いてしまう二人。山崎の見解と土方の見解は同じだった。室内に重たい空気が淀む。
少しの間を置いてから、土方が静かなトーンで山崎へと指示を出した。
土方「引き続き葵咲の見張りを頼む。あいつの護衛も兼てな。警戒を怠るなよ。」
山崎「はい。」