第56章 優しさは時に相手につけこまれる。
それから数日が経つが、特に動きは無い。攘夷志士達が葵咲に接触してくる気配も無かった。葵咲はいつもと変わらぬ様子で歌舞伎町へと買出しへ出掛ける。特に不審な様子もなく、普段の明るい葵咲だ。
そんな葵咲の様子を見て安心する山崎。だが警戒は怠らずにその姿を陰から見守っていた。
「葵咲ちゃん、新鮮な野菜が入ったの。一つどう?」
八百屋のお姉さんが葵咲へと声を掛ける。葵咲は声のする方へと振り返り、店頭に並んでいる野菜へと目を向けた。
葵咲「へぇ。何のお野菜ですか?」
「白菜!葵咲ちゃんはお得意様だから安くしとくよ~!」
葵咲「本当ですか?じゃあ頂こうかな…」
至って普通な日常の風景。むしろ微笑ましいくらいの清々しさである。
だが、そんな風景に少し違和感を感じる山崎。その“違和感”を探すべく、葵咲から少し視線を外す。すると、ちょうど葵咲の頭上にその“違和感”の正体があった。
山崎「・・・・?」
葵咲のいる位置のちょうど真上は建物のバルコニーがある。そのバルコニーに置いてあった植木鉢が動いたのだ。
山崎「!? 危ない!!」
葵咲「え…っ?」