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銀魂 - 雪月花 -

第56章 優しさは時に相手につけこまれる。


山崎が葵咲の見張りを始めて三日目。
今のところ特に変わった様子はない。葵咲は予定どおりの業務を行ない、女中の仕事で商店街へと買出しに出掛ける。勿論、山崎も後を追った。尾行する際に山崎は急いで制服から私服へと着替えた。流石に真選組制服での尾行は目立ちすぎる為だ。
この日の葵咲は特に怪しい様子もなく、普段と変わらず笑顔で仕事をしている。そんな葵咲の様子に、山崎は少しほっとする。もしかしたら自分の思い過ごしだったのかもしれない。
そんな事を考えていると、魚屋の横を通り過ぎた時、魚屋の夫人が葵咲へと声を掛けた。


「あっ!ちょいと!」

葵咲「はい?」


声を掛けられ、足を止めて振り返る葵咲。声のトーンからして良い雰囲気の話でない事が分かった。その雰囲気を感じ取ったのは良いが、魚屋の夫人が不機嫌な理由に全く心当たりが無い。葵咲は怪訝な顔をして小首をかしげる。そして夫人は眉根を寄せて言った。


「アンタの“連れ”の貯まったツケ、そろそろ払ってくれないかい?」

葵咲「あっ…。す、すみません。おいくらですか?」


“連れ”とは誰の事だろうか?山崎は物陰に隠れながら二人の会話を聞き、疑問を頭に浮かべる。会話の雰囲気から察するに、葵咲はその“連れ”に心当たりがあるようだ。葵咲は慌てた様子で懐から財布を出す。一方夫人はゴソゴソとレジ横の棚から総額が書かれた請求書を取り出した。
そして請求書をずいっと葵咲へと差し出す。


「87,940円だよ。」

山崎「!?」

葵咲「えっ!はちっ!?す、すみません!今手持ちがあまりなくて…。とりあえず今日は三万円だけでも良いですか…?残りは近日中に必ずお持ちしますので…!」


金額を聞いて狼狽する葵咲。勿論の事ながら、陰で話を聞いていた山崎も驚きを隠せない。たかが魚で、といったら少し語弊があるかもしれないが、約九万円の出費はなかなかないだろう。二人が驚くのも無理の無い話だった。魚屋の夫人は、葵咲が悪意を持って支払いを滞らせているわけではない事を知っていた為、葵咲の申し出を受け入れた。


「…分かったよ。」
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