第55章 自分の事は案外自分よりも他人の方がよく分かっている。
総悟が塞ぐように下を向いていると、近藤がそれを慰めるかのように眉尻を下げて言葉を掛けた。
近藤「そりゃそうだろう。お前もトシも立場が同じだ。お前が真選組隊士じゃなく、一般市民ならまた話は変わったかもしれないがな。」
総悟「…まぁ確かにそれは一理あるかもしれやせんが…。」
逆に言えばミツバの相手が真選組隊士だったのなら、今回と同じ結果だったのかもしれない。それは今となっては分からぬ結果だが、今更それを考えても仕方がない。
総悟は髪をくしゃっと掻いて沈黙を落とす。
そして近藤がもう一つ、気付いていた事を口にした。
近藤「それに、トシが身を引けないように仕向けたのは、お前自身だろう?」
総悟「!」
近藤「その為に、“わざと雪玉に色々仕込んだ”んだろう?」
山崎「!」
総悟「・・・・・。」
近藤からの指摘に、眉をピクリと動かす総悟。近藤は更に続ける。
近藤「単なる雪玉なら、トシが“自分から雪玉に当たる”かもしれねぇから。自分から身を引けねぇように、自分から負けたりしねぇように仕込んだ…、違うか?」
総悟は何も言えずに押し黙る。この態度は、どうやら図星のようだ。総悟は近藤からの指摘には肯定も否定もせず、自分の意見を述べる。
総悟「…でも、仮にそれがなかったとしても、今回は違ったと思いやすよ。」
近藤「! …そうだな。」
土方の心の底に秘める心情に気付いている近藤もまた、総悟の意見には頷くしかなかった。
総悟は目を瞑り、フゥと息を漏らしてからいつもどおりの表情へと戻す。そしてその場から立ち去るようにゆっくりと歩き出した。
総悟「ま、だからって俺だっていい加減な気持ちだったわけじゃねぇんで。ヤローが余所見するようなら、いつでも葵咲を掻っ攫うつもりでいやすからね。」
近藤「フッ。それは本人に直接言ってやったらどうだ?」
総悟の背を見送りながら、その背に話しかける近藤。総悟は振り返らずに静かに答えた。
総悟「…絶対言わねぇ。」
その背中を見送っていた近藤と山崎だったが、彼の発言を聞き、二人は顔を見合わせて笑みを漏らした。