第55章 自分の事は案外自分よりも他人の方がよく分かっている。
翌朝、屯所内を歩いていた葵咲は偶然総悟と出くわす。昨日の事を思い出して葵咲は言葉を詰まらせた。
葵咲「あっ、総悟君…。あの・・・・。」
どんな顔をして、何と声を掛けて良いのか分からない。葵咲が目を泳がせていると、総悟がすっと頭を下げた。
総悟「この間はすいやせんでした。」
葵咲「!」
総悟「それから、有難うございやした。楽しかったです。」
頭を上げて笑顔を見せる総悟。その笑顔に葵咲は救われる気持ちといたたまれない気持ちとに襲われる。
葵咲「総悟君…。お礼を言うのは私の方だよ、有難う。」
少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら言葉を押し出す葵咲に、総悟は何も追求せずに更に笑顔で言葉を連ねる。
総悟「また、誘ってもいいですかぃ?“デート”って意識しなくて良いんで。」
葵咲「…うん。」
総悟からの優しい一言に、葵咲は静かに頷いた。