第55章 自分の事は案外自分よりも他人の方がよく分かっている。
暫く黙って立ち去る二人の背中を見送っていた総悟だったが、呆れたような表情に変えて、一つ大きなため息をついた。
総悟「・・・・・。」
近藤「お前、わざとだろう?」
いつの間にか、河川敷へと降りてきていた近藤が総悟に静かに問い掛ける。総悟は近藤の方にちらりと目を向けるが、その問いには少し間を置いてから、とぼけるように視線を逸らした。
総悟「…何の話ですかぃ?」
二人の会話についていけずにいる山崎。山崎はきょとんとした顔で近藤と総悟の顔を交互に見ていた。近藤は全てを見透かしたような表情で総悟の顔を見ながら続ける。
近藤「今回、トシに決闘を挑む為に、わざと煙草の自販機の傍にラブホのチラシ落としておいたんだろう?」
山崎「えっ!?」
土方が総悟から葵咲とのデートの話を聞いた後に拾い上げたチラシの事である。たまたまその場に居合わせた近藤は、土方が手に取ったチラシが何であるかを見ていた。だが、総悟はなおもとぼけたような素振りを見せる。
総悟「・・・・さぁ。俺には何の事だかさっぱり。」
近藤「フッ。」
いつもの総悟なら、それが全くの誤解・濡れ衣であれば反論や訂正をすることだろう。だがそれが無く、とぼけているのは肯定の意と捕らえられる。それが分かった近藤は、そんな総悟の様子が何だか微笑ましく思えて笑顔を零した。
近藤「総悟、お前の負けだよ。」
総悟「・・・・・。」
やっぱり近藤には敵わない。
そう思った総悟は、少し眉根を寄せて近藤の方を一瞥した後、また視線を逸らして静かに言葉を放った。
総悟「…分かってやしたよ。」
近藤「ん?」
総悟「分かっては、いたんですけどねぃ。でも…どうしてもやるせねぇ気持ちがあったんでさァ。」
近藤・山崎「?」
真剣に語り始める総悟。総悟は少し寂しげな表情を浮かべていた。今までに無い張り詰めたような空気に、近藤と山崎は静かに耳を傾ける。