第55章 自分の事は案外自分よりも他人の方がよく分かっている。
葵咲を賭けて、土方と総悟が決闘することになった。決闘の種目は雪合戦。これには雪玉の準備がいるという事もあり、決闘の取り決めから一時間の準備時間を設ける。
そしてその一時間が経ち、決闘場所である河川敷、土方と総悟はもうスタンバっている。二人の異様な空気に、橋の上を通りかかる通行人が足を止めてその様子を見下ろす。そして人が人を呼び、この場には人だかりが出来ていた。
そこをたまたま近藤が通りかかる。あまりの人の多さに近藤は、橋の下を見下ろす男性の一人に声を掛けた。
近藤「なんだ?何かあんのか?」
「決闘だってよ。女取り合ってやり合うらしいぜ。」
近藤「ほぅ。…懐かしいな。そういや俺も、ここで万事屋(あいつ)とお妙さんをかけて決闘したっけなぁ。」
過去を思い出しながら腕を組み、懐かしむように目を細めて空を見上げる近藤。あの頃を振り返れば随分と遠いところまで走ってきた気がする。相変わらず妙との関係に進展はないが、想い続ける事への後悔はない。初心を忘れずにいようと、改めて妙への想いを固める近藤。そしてそんな自分と同じ道を通ろうとしている輩とはどんな男達なのか、その人物像に興味が沸いた。
近藤は人と人との間を割って入り、河川敷を見下ろした。
近藤「どんな奴がやり合…ってトシィィィ!?総悟ォォォォ!?」
思わず叫ぶ近藤。まぁ無理もない話だろう。まさか見知った顔である真選組隊士が、しかも自分と特に親しい二人がやり合おうとしているとは思いもしなかった。近藤の声を聞き、土方と総悟の二人は近藤の方を見上げる。
近藤「お前ら!何やって…!!」
土方「近藤さん。」
総悟「外野は黙っててくだせぇ。これは男の勝負でさぁ。」