第54章 何も訊かないでいてやる事もひとつの優しさ。
土方「…!」
総悟「俺が勝ったら、葵咲を頂く。が、土方さんが俺に勝てたら、今ここで葵咲に手ぇ出すのはやめときやす。」
葵咲「なっ!」
土方「・・・・・。」
葵咲「土方さんは関係な…」
ここまで口を挟めなかった葵咲だが、ここで思わず声を上げる。無関係な人間を巻き込むわけにはいかない、そう思ったからだ。二人を止めるように両者間に割って入る葵咲。だが、葵咲の事など視界に入っていないといった様子で二人は会話を進める。
土方「・・・・分かった。」
葵咲「ちょ!土方さん!?何言って…!!」
土方「勝負の方法は?」
総悟「そうですねぃ、雪合戦にしやしょう。」
土方「…なんでそれ?」
ここまで真剣に向き合っていた土方だったが、思わず間の抜けた声が出てしまった。だが総悟は至って真剣な様子で続ける。
総悟「季節柄いいじゃないですか。それに私闘は局中法度でしょ。雪合戦ならお遊びって事で片付けられるじゃないですかぃ。」
土方「なるほどな。」
まぁ総悟の言う事も一理ある。副長と一番隊隊長自ら禁を犯すわけにはいかない。土方は持っていた煙草の箱から煙草を一本取り出し、口に咥えてライターで火を点けた。
総悟「じゃあ各々準備時間は一時間。一時間後、過去近藤さんと万事屋の旦那が決闘を行なったあの河川敷でやり合いやしょう。」
土方「ああ。」
葵咲「えっ!ちょ、待って!二人とも!!…あ・・・・。」
葵咲の制止など聞く耳持たずに二人はさっさとその場を後にする。
取り残された葵咲は二人の背中を見つめることしか出来なかった。