第54章 何も訊かないでいてやる事もひとつの優しさ。
葵咲「! ひ、土方さん!?なんでここに…?」
驚きで目を瞬かせる葵咲。だがそんな葵咲の質問には答えず、土方は総悟の目をじっと見据えたまま言葉を放つ。
土方「おい。そのへんにしとけ。」
総悟「土方さん、…邪魔しないでくだせぇって言ったはずですが。土方さんには関係ないでしょ。」
総悟は掴んでいた葵咲の手を離し、土方へと向き直った。土方の顔を見上げて睨む総悟。土方もそれを受けて立つかのように総悟を睨み返した。
土方「何言ってやがる。俺の問題じゃねーだろ。本人が目の前で嫌がってんだろーが。ほっとけるかよ。」
両者一歩も引かないといった様子で睨み合う二人。葵咲は無意識に、助けを請うかのように土方の顔を見上げ、言葉を零した。
葵咲「土方さん…。」
土方はそんな葵咲にちらりと目をやり、再び総悟へと視線を戻して言及した。
土方「それに、お前の“気持ち(それ)”は、本物なのか?」
総悟「!」
その言葉に、眉をぴくりと動かす総悟。その言葉に対しては特に何も返さず、黙ってじっと土方の目を見据える。すると更に土方が言葉を続けた。
土方「本気じゃねぇならやめろ。」
総悟「・・・・・。」
土方「・・・・・。」
少しの間、二人は言葉を交わさず睨み合っていた。葵咲はそんな二人に口を挟むことが出来ず、ただただ心配そうな眼差しで二人の様子を交互に眺めていた。
そして今度は総悟が口を開く。総悟は一度目を瞑り、再び目を開けて土方に視線を合わせる。
総悟「えぇ。本気ですぜぃ。だから土方さん、俺ァ、アンタに決闘を申し込む。」
土方「は!? お前、何言っ…。」
そこまで言って、土方は口を噤んだ。総悟の瞳に宿った決意が本気である事を語っていたからだ。