第54章 何も訊かないでいてやる事もひとつの優しさ。
それは第二十五訓のお話。総悟の誕生日を祝った時の事だ。パトロール中に総悟から自分か土方、どちらが大事かを問いかけられた、その返事だ。
葵咲『どっちが大切かなんて選べないよ。どっちの方がとか、そんなのない。そーちゃんも、土方さんも、私にとってどっちも大切な仲間だから。』
その返答を葵咲も覚えている。その言葉を思い出し、葵咲が目を大きく見開いていると総悟は更に続けた。
総悟「その気持ち、今も同じですかぃ?」
葵咲「えっ?そ、それは・・・・。」
総悟「・・・・・。」
質問を投げ掛けられて葵咲の頭の中にぱっと浮かび上がったのは、先日の記憶。土方と手錠で繋がれてしまい、一夜を共に過ごした時の事だ。意識して眠れなかった事を思い出して、葵咲は顔をボンッと赤くする。
そして言葉を詰まらせてしまう葵咲。総悟は何かを見定めるかのように少しの間葵咲の顔をじっと見つめ、ため息を漏らした。
総悟「…埒があかねぇや。とりあえず入りやしょう。」
葵咲「え?」
そう言って再び総悟は葵咲の手首を掴み、ホテルの入口の方へと足を向けた。
総悟「試してみりゃいいんですよ。最後まで。」
葵咲「え!?」
総悟「大丈夫ですよ。優しくしてあげまさぁ。」
葵咲「ちょ、まっ、待って!…イヤ…っ!」
必死に拒むが力強いその手は振り解けず、葵咲がきゅっと目を瞑ったその時、誰かが総悟の肩をガッと掴んでその行動を引き止めた。
総悟「!?」
葵咲「?」
総悟が急に立ち止まった事により、葵咲は総悟の背中にぶつかる。
そしてゆっくり目を開けて顔を上げると、そこにはここにいるはずのない人物の姿があった。