第54章 何も訊かないでいてやる事もひとつの優しさ。
二人は館内へと入り、順路に従って歩を進める。最初は攘夷戦争の始まりから。年号やきっかけ等が詳しく記述された文字板が飾られている。
それから部屋を進んでいくと、年代に沿って当時の英雄達の名前や経歴が記載された文字板があり、人によっては写真がある者もいた。
最初に名が記載されていたのは伝説と名高い西郷の名前と戦歴。当然のことながら、現在の経歴である“マドマーゼル西郷”については一切書かれていないが。
他には桂や高杉、坂本の記述もある。勿論、“白夜叉”も。ただ白夜叉については、その存在が伝説的になっている為、“白夜叉”という呼称のみの記載で、本名である“坂田銀時”の名は書かれていなかった。
そして更に順に進んでいくと、武器や鎧等も展示されており、戦争の風景や負傷者の写真等も展示されていた。それらは戦争の恐ろしさを物語る。
拝観者の人数は多くは無く、むしろ館内は閑散としていた。年齢層も年配者ばかりで、間違っても総悟達のような若者カップルはいない。館内の空気的にも、きゃいきゃいとはしゃげる雰囲気ではなかった。
というより、はしゃぐ気が失せてくる。そんな気分にはなれないようなヘビーな写真が沢山あるのだ。それらを見て、流石の総悟も気持ちがどんよりとしてきた。
(総悟:やっぱデート向きじゃねぇな…。)
一刻も早くここを出たい。そんな気分にさえなってきた。折角のデートなのにテンションだだ下がりである。
総悟は展示品に目を向けたまま、苦笑いを浮かべて小声で葵咲に話し掛けた。
総悟「葵咲、そろそろ出やせんか?」
葵咲「・・・・・。」
返答が無い。いくら小声とはいえ、隣に立っているのに聞こえないはずがない。しかも館内はとても静かだ。葵咲の様子を不審に思った総悟は、葵咲の方に目を向けて再び声をかける。
総悟「葵咲?」