第53章 相手の承諾を得るのに必要なのは粘り強さ。
一方総悟は葵咲と分かれた後、屯所内をふらりと歩いていた。そこでばったり土方と遭遇する。
総悟「あっ、土方さん。」
声を掛けた瞬間、総悟は今まで土方には見せた事のない高揚した笑顔を見せた。
当然の事ながら、そんな総悟の笑顔を見た土方は一歩後ずさり、苦笑を浮かべる。
土方「な、なんだよ。ニヤけた面して気持ち悪ィな…。」
そんな土方に対して総悟は表情を改め、フフンと鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべた。
総悟「明日、葵咲とデートなんですよ。」
土方「!」
“葵咲とデート”というワードに反応し、戸惑いを見せる土方。だが、次に総悟の口から放たれるワードを聞いて一瞬で平静さを取り戻す。
総悟「攘夷戦争記念館に行くんでさぁ。」
土方「…なんでそこ?全然デート向きの場所じゃなくね?」
思わず素でツッコミを入れる土方。それに対して総悟もいつもの真顔に戻る。
総悟「まぁ俺もそう思ったんですがねぃ。葵咲がどうしてもって。一人じゃなかなか足が向かなかったらしいんですが、俺と一緒ならって。俺の事、信頼してくれてるみたいでさぁ。」
総悟の表情が真顔に戻ったのは最初の一瞬だけで、その後すぐにまた不敵な笑みへと表情は戻った。葵咲が攘夷戦争記念館に行きたい理由を答えた際に、総悟が表情を明るくした訳はこれだった。一人じゃ足が向かない場所、けれど行かなければならないと思っている場所への同行のお願いだ。これは信頼の証と捕らえて良いだろう。自分がその同行者として相応しいと判断された事に嬉しく思ったのだ。
総悟の挑発的な態度を見定めるかのように、土方は何も言わずにただただ総悟の顔をじっと見つめた。