第53章 相手の承諾を得るのに必要なのは粘り強さ。
葵咲「…じゃあ・・・・攘夷戦争記念館。」
総悟「え。」
想定外の場所だった。
初デートの定番と言えば、映画館や水族館。慣れ親しんだ仲なら遊園地等も良いだろう。てっきりそんな普通のカップルが行くような華やかなデートスポットが出てくると思っていた総悟は、思わず低い声で真顔になる。
そんな総悟の表情を見て、葵咲は少し首を傾けた。
葵咲「やっぱりダメ?」
総悟「いや、ダメじゃねぇですが…なんていうか、全然デート向きの場所じゃないんですけど。」
攘夷戦争記念館は決して華やかな場所ではない。むしろ初デートには不向きな場所だ。
今後、恋愛関係に進展させたいなら初デートは肝心。最初が楽しい思い出にならなければ、そこから進展させるのはなかなか難しいだろう。そう思い、総悟はもう少し楽しい思い出の作れそうな場所が良かったのだが、葵咲は黙ってしゅんとした様子で俯いてしまう。
葵咲「・・・・・。」
総悟「…まぁ、葵咲が行きたいんなら…。」
ここは総悟が折れるしかなかった。これ以上食い下がればデートそのものが無くなり兼ねない。総悟は眉尻を下げて頭を掻いた。
だがその場所を承諾するにしても、理由は訊いておきたかった。総悟は葵咲がその場所を選んだ理由をストレートに尋ねた。
総悟「でも、どうしてそこに?」
自分を諦めさせる為に、わざとそんな場所を選んだのでは?そんな風にも思えたからだ。もしこの質問にしどろもどろになるようなら行先変更を提案してやろう、そう考えた総悟だったが、その考えはすぐに打ち消された。葵咲はその質問に真剣に答える。
葵咲「ずっと行かなきゃって思ってたんだけど…どうしても一人では足が向かなくて…。誰かと一緒だったら行けるかなって。」
総悟「!」
その答えに、表情を明るくする総悟。嬉しそうに頬を少し赤く染めながら、右手人差し指でポリポリと頬を掻いた。
総悟「…そっか。そういう事なら。…じゃあ明日、11時頃屯所出発で良いですかぃ?何処かで昼飯取って記念館行きやしょう!」
葵咲「うん。ありがと。」
快く承諾してくれた総悟に、葵咲は笑みを返した。