第53章 相手の承諾を得るのに必要なのは粘り強さ。
デート前日の朝。
総悟は屯所内を歩いていた葵咲を呼び止め、満面の笑みを浮かべて質問を投げかけた。
総悟「葵咲。行きたい場所、何処か決まりやした?」
葵咲「…ホントにデートするの?」
足を止めて振り返る葵咲。頬に一筋の汗を垂らしながら苦笑いの表情を浮かべる。いや、頭の中では分かっている。総悟が本気でデートを提案してきた事は。だが念の為に最終確認として訊いておきたかったのだ。
そんな葵咲の心情など知らない総悟は、本気にされていなかったのだと思い、ムッとした表情を葵咲に向けた。
総悟「そんなに俺とのデート、イヤなんですかぃ?」
葵咲「そうじゃないけど…。」
デート遂行が本気な事は分かっている。だが、総悟がどの程度の気持ちなのかが分からない。その気持ちの本気度によって、相手に失礼のないように引き受ける側としても態度や対応も変えなければならないだろう。その事を確かめたかったのだが、これを言葉にするのはなかなか難しい。葵咲が言葉を詰まらせていると、総悟はじとっとした目つきで葵咲を睨み始めた。総悟の視線に耐えかねた葵咲は一先ず折れた。
葵咲「分かった!分かったから!」
総悟の気持ちの程度は、デートを通して知れば良い事だ。そうも思い、葵咲は改めて総悟からのデートの申し出を受諾する事にした。
そして考える。行先の希望…。搾り出そうとしてみるが咄嗟には出てこない。
葵咲「…う~ん…。行きたいトコねぇ…明日決める感じじゃダメなの?」
総悟「今日中で。出来れば今。」
葵咲「・・・・・。」
梃子でも動かないといった様子の総悟。ここで何か希望を出さなければ仕事に戻してもらえなさそうだ。葵咲は左手を顎に当て、唸りながら行きたい場所を考える。
そうして考え込んでいると、行きたい場所がふと頭に思い浮かんだ。だが、すぐに言葉には出来ず、もう一度考え込みながら俯く。そして再度確認するように上目遣いで総悟を見上げて尋ねた。
葵咲「ホントに何処でも良い?」
総悟「えぇ。葵咲が行きたいトコなら。」
そう言って笑顔を取り戻す総悟。葵咲はその笑顔を受け取りながらも、少し躊躇いがちに希望を言葉にした。