第52章 疲れてる時はどんな状況だって眠れる。
土方「…確かに、奴らが共闘してたなら、そんな重要な事は告げてるか。敵の戦法に関する情報を伝えるのは定石だからな。」
葵咲「うん…。」
もし今回の事件で高杉が葵咲を狙っていたのなら、注意を促す為にも田中に葵咲が二刀流だという事を告げ、その時に元々は左利きだという事も一緒に告げてた事だろう。
静かに葵咲の意見に同調していた土方だったが、ここで何かに気付いたようにハッと顔を上げる。そしてバッと葵咲の方を見て声を上げた。
土方「…あ。つーか!じゃあさっきも左手で刀握りゃあ良かったじゃねーか!!」
ひったくり犯を追いかけていた時、土方は刀そのものになるよう強要された。その必要はなかったんじゃないかと怒りを露にしたのだ。そんな土方の文句に対して、葵咲は申し訳なさそうな顔を浮かべて視線を逸らした。
葵咲「あぁ…いや・・・・。今、刀は…握れないんだ。」
土方「え?」
葵咲「昔は確かに両利きだったんだけど、色々あって…左手で刀、握れなくなったの。握ろうとするとその時の事、思い出して手が震えちゃって…。」
土方「!」
深く俯く葵咲。テーブルの上で組んでいた手にきゅっと力を入れる。
葵咲「この間は火事場の馬鹿力って言うか、ギリギリの局面だったから握れたけど…その後もう一度握ろうとしたけど、やっぱりダメだった…。」
悲しそうな顔を浮かべる葵咲を見て、そのトラウマは深刻なものなのだという事が分かった。土方は心配そうに葵咲に尋ねる。
土方「・・・・何があったんだ?」
葵咲「・・・・・。」
心配してかけた言葉だったが、黙り込む葵咲を見て触れてはならない部分なのだと思い、土方は慌ててパッと視線を逸らす。
土方「悪ィ。立ち入りすぎた。今のは忘れてく…」
葵咲「・・・・今はまだ…ごめんなさい。でもいつか…いつか必ず…話すから。その時は…聞いて・・・・もらえるかな?」
恐る恐る言葉を押し出す葵咲に、土方は視線を戻す。そして優しい言葉を掛けた。
土方「…分かった。別に焦る必要はねぇからな。」
葵咲「うん…。ありがとう。」