第51章 心頭滅却すれば刀にもなれる。
ひったくり犯逮捕後に張り込み先へと戻ったものの、結局、誰もその場に現れる事は無く、攘夷志士逮捕には至らなかった。
そして二人は夕食を取る為、定食屋へと足を運ぶ。この後は特に仕事もない為、屯所に戻って食堂で夕食を取る選択肢もあったのだが、食堂は隊士達の目がある。手錠で繋がれたこの状態を見られてしまっては何を言われるか分かったもんじゃない。それに定食屋ならカウンター席がある為、腕が繋がった状態での食事も容易だと考えたのだ。
定食屋に入り、慣れた様子でカウンター席へと腰掛ける土方。葵咲もその隣へと腰掛け、土方はいつものとおり土方スペシャルを。葵咲は天丼を注文した。
土方「あー・・・・すげぇ疲れた・・・・。」
背もたれに背中を預け、天井を仰ぎ見ながらぐったりする土方。葵咲は特に疲れた様子もなく、ぼーっと壁に掛けられたメニュー表を眺めていた。土方はふと葵咲の横顔へと視線を移し、何か考え込むように真剣な眼差しを向ける。
土方「・・・・・。」
そんな土方の視線に気付いた葵咲は、土方の方へと目を向けた。
葵咲「土方さん?どうかしました?…私の顔に何かついてます?」
土方「…お前さ、天導衆って知ってるか?」
葵咲「天丼集?もしかして天丼セットの裏メニュー!?ちょ、注文する前に言って下さいよ!食べたかった!」
まさかの聞き間違い、“天丼集”。それを聞いた土方はズッコケるあまり椅子から落ちそうになるが、堪えてすぐさまツッコミを入れる。
土方「天丼集じゃねーよ!天導衆!!」
葵咲「てんどう・・・・??」
土方の訂正に、目を瞬かせる葵咲。きょとんとしたその顔つきに、嘘はないものと見られる。全く知らない、聞いた事すらないといった様子の葵咲を見て、土方は視線を逸らして首を横に振った。
土方「…いや、知らねぇならいい。」
葵咲「?」