第50章 音姫使ったって外に音は聞こえている。
土方「高杉は市村家に恨みがあったって事か!?」
近藤「そのセンは濃厚かもしれん。市村家は元々幕府側の人間だ。天人襲来時、すぐさま天人に国を渡すよう裏で指示していたのが市村家の人間だったという噂を聞いた事もある。」
土方「幕府側の人間、しかも国を売るよう裏で糸を引いてた市村家を恨んでの犯行、か。」
顎に手をあてながら唸るように俯く土方。だがここで何かを閃いたように目を開き、パッと顔を上げて近藤の方へと目を向けた。
土方「・・・・!ちょっと待て、じゃあなんで葵咲は…“生きている”!?」
近藤「・・・・・。」
土方の疑問は近藤の内にあった疑問でもある。古兵衛から話を聞き、近藤も口にしようとした言葉だ。
だが、土方の言葉に特に返事を返さず押し黙る近藤を見て、その意味が伝わっていないものだと思った土方は、その言葉の刺す意味を説明し始めた。
土方「高杉が市村家を恨む理由は分かった。だがそれなら、葵咲を一番憎んでるはずなんじゃねぇのか?葵咲は吉田松陽の姪、しかも幼馴染だ。そんな奴が市村家にいたとなりゃ…」
近藤「本来なら一番憎らしい相手だろうな。幼い頃に共に育った友人。それが敵方にいたとなりゃあ…そうなるのが自然だ。」
土方の言葉を引き継ぎ、近藤もその意味への理解を示した。
考え込むように少しの間、二人は沈黙を落とす。そして再び土方が口を開いた。
土方「…襲撃した時(そのとき)たまたまその場にいなかったのか?」
近藤「分からん。そもそも資料を調べる限り、高杉が関与していたなんて書かれちゃいねぇ。だが…田中古兵衛(やつ)がわざわざそんな嘘を吐くとも…思えなくてな…。」
土方「・・・・・。」
二人は答えの出ない課題をこれ以上考えていても仕方がないとし、一度この件に関しては保留とすることにした。