第49章 犬の散歩は主導権を握る必要がある。
近藤を粛清し、屯所へと足を向ける土方。だが気持ちのモヤモヤは晴れない。かなり苛立った状態で咥えた煙草をぎゅっと噛んで歩いていた。
土方「…チィッ。」
胸くそ悪い。やはりもう少し寄り道して頭を冷やしてから屯所へ戻るか。そう思って道筋を変えようとしたその時、背後から声を掛けられた。
「あれ、土方さん?」
振り返るとそこには葵咲がいた。
土方「!? き、葵咲…!」
正直、今一番会いたくない人物だった。何を話せば良いのか分からない。いや、それ以上にどんな顔をしていれば良いのかすら分からない。土方がしどろもどろとしていると、葵咲が笑顔で語りかけた。
葵咲「土方さんもお出かけだったの?」
土方「いや、その…。」
葵咲「?」
黙り込んでしまう土方。暗く俯く土方を見て、葵咲は心配そうな瞳を向けた。“知らぬが仏”という言葉がある。葵咲を傷付けない為にも、この事は語らないべきかとも思ったが、大事な事だ。やはり黙っておくべきではない。そう思った土方は、慎重に言葉を選びながら、近藤の事を伝える事にした。
土方「・・・・近藤さんの、事なんだが…。」
葵咲「ああ!土方さんも聞いたの?」
近藤の名前を聞いて、ぱっと表情を明るくする葵咲。それを見て土方は言葉を詰まらせる。胸がチクチクと痛んだ。『この度晴れて近藤と付き合う事になった。』などと言われてしまえば非常に言い辛い雰囲気になる。ソレを阻止する為にも先に言葉を発しようとするが、それよりも早く葵咲は話を続けてしまった。