第49章 犬の散歩は主導権を握る必要がある。
近藤達の姿が見える距離で後を尾行(つ)けていた土方だったが、歩いている途中でカップルに写真の撮影を頼まれて後れをとる。この遊歩道は一本道。見失う事はないだろう。そう思い、土方はカップルの要求に応えた。そして再び歩き出し、二人の後を追った。
遊歩道を暫く歩いた先は、川から逸れて緑地公園へと繋がっている。緑地公園へと入ったところで、近藤と葵咲の姿を見つけた。だが、二人の姿を見つけるや否や、土方は慌てて木陰へと身を潜める。
土方「!?」
近藤が葵咲をしっかりと抱き締めていたのだ。葵咲は近藤の腕の中で小さく言葉を漏らす。
葵咲「近藤さん…。」
近藤「…少し休むか?ゆっくり出来る…静かなところがいいな。ベッドで休もう…。」
葵咲「・・・・はい。」
土方「!!」
カップルが“ゆっくり出来る”、“静かな場所”で、“少し休む”…このワードが指し示すのは一つしかない。しかもベッドで休もうときた。それは恋人達の愛の営み。そう思った土方の顔には影が差した。そして二人を背に、土方は静かにその場を後にした。